〈教育の多様性〉の会
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  オランダの学校教育8 中等教育の新しい改革・スタディハウス
リヒテルズ直子さん

Date : 2003.03.10
Number : 008

ML ID : リヒテルズ直子
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 オランダでは、1999年の9月、日本の高校にあたる『中等教育後期』に新しい制度が導入され、これにより、特に、VWO(大学進学コース)やHAVO(高等職業技術専門学校進学コース)の学習内容が大幅に改編され、文部省の指導の元に、教授法や学校の施設・設備も大きく変わった。
 『スタディ・ハウス』と呼ばれる、この高等教育進学希望の高校生を対象にした新しい制度は、もともと、従来の方法では、高校修了者の知識や学力が不足していて高等教育でついていけない学生が多く落第している、という高等教育機関側からの指摘があったことがひとつの起因でもあった。また、情報化社会の急速な発展とともに、従来のような、教師が、限られた知識を生徒に伝達する、というだけの教育では間に合わなくなってきた、という、技術革新への対応、という面もあったと思われる。新しい制度は、数年前から教育学者の研究グループが考案を重ね、さらに、97年に国会で実施が決議されている。99年の実施に先立ち、各地の学校で、実験的な施行が行われた上で、考案への修正が加えられてきた。
 改革の第一の要点は、『習う』授業から『学ぶ』授業へ、という考え方である。これは、前に述べた、『刷新教育』が追求してきた、『個別の発達』『自主性』の強調とも関係があり、『課題遂行』形式や『小グループによるプロジェクト』などの考え方は、ダルトン教育などの影響を明らかに辿ることが出来る。教師が教壇に立って生徒らに教科書の内容を追って説明する、という授業は、『古典的』と呼ばれ、出来るだけ減少させよう、との意図がある。そのために、教科書も従来のものから大きく様変わりして、自習で学習できるようになっている。教師は、自習している子供からの質問に答えるガイドの役割をするように、との考え方である。そのために、学校は、教室の外の廊下や、ホールの片隅など、いろいろな空間を利用して、個々の子供が集中して勉強できる空間を設けている。また、従来の図書館に変わり、コンピューターを数十台並べたメディア室を作り、子供たちがいつでも情報収集や報告書を作ることが出来るような設備を設けている。
 また、中等教育第四学年(高校一年)で理科系か文科系の選択をし、第5学年(高校2年)以降、さらに、『文学系』『社会科学系』『理工系』『医療保健系』のコースを選択することが義務付けられ、それぞれのコースで、単位履修方式で学習するように、全国的に統一された。科目数は従来の7科目から14科目になり、その中には、これまでなかった『哲学』や『一般科学知識』『文化・芸術教育』など、学際的で、考える訓練を要する科目が加わってきている。
 生徒らは、毎学年いつ・どの時期にどの科目のどの試験があるか、科学実験・自主研究報告・読書報告はどの時期にしなければならないか、などのスケジュールを受け取り、それを補助的に助ける授業計画に合わせて、自分で時間の配分を決めて、課題を遂行していき、試験や報告書の採点によって各学科の及第・落第が決まる。

付録 『オランダ通信』([LINK])より
約2万人の高校一年生、ハーグに大集合、新教育制度に集団抗議(第3号時事、1999.12)
 「週に40時間しか働かなくていいお父さんがうらやましい。」「アルバイトも出来ないよ。」「勉強勉強でガールフレンドに会う暇もない。」「僕たちは教育改革の実験用ウサギじゃないんだ。」「冗談もほどほどにしてくれよ。」
 12月6日、年に1度の愉しいセントニコラスのお祝いの終わった翌日は、オランダ全国からハーグに向かう列車は高校一年生の乗客で何処も大変な混み様となりました。
 オランダでは今年の9月から、日本の高校にあたる中等教育後期に、いわゆる「スタディ・ハウス」と呼ばれる新制度が導入されました。この制度の導入により、特に高等教育への進学を予定したVWO(大学進学予備コース)とHAVO(高等専門学校予備コース:日本の高専や短大進学にほぼ相当)に在学する子供達の学習課題が急激に増加し、その第一期生に当たる高校一年生(オランダでは中高一貫なので実際には中学4年生)が、政府に対して抗議行動を起こしたのです。
 『スタディ・ハウス』は、高校修了者の知識や学力が不足していて大学などの高等教育でついていけず多くの学生が落第している、という大学側からの問題の指摘を受け、数年前から教育学者のグループを中心に考案されてきた教育改革案で、すでに一部の学校などで実験的な試行等が行なわれた上、97年に国会で実施が決定されたものです。改革の大筋は、「『習う』のではなく、『自分で学ぶ』」というもの。今までのように教師が教室の前に立って「知識を教える」のではなく、生徒たちがそれぞれの科目の課題を定められた時間以内に自分の計画に沿ってこなしていく、その為に教師はどのように課題を遂行すればよいかのガイダンスを与えるようにする、というもの。もちろん基本となる知識は、これまでのように教師が生徒全員に説明する、という形も残され、具体的にどのように実践していくかは、学校によって、また、この国で非常に尊重されている個々の教師の個人的判断によって、いろいろな形態がとられています。「習うのではなく学ぶ」ためには、当然、情報収集・処理能力が重視され、図書館やコンピューターなどの施設の充実も、並行して各学校で進められています。
 日本の中学にあたる中等教育前期三年の基礎教育が終わると、VWOやHAVOの生徒たちは、『文学系』『社会科学系』『理工系』『医療保健系』の四つのコースの中からひとつを選ぶのですが、オランダでは、大学や高等専門学校に進む為にはこれらの高校レベルのコースが終わった後に全国共通試験を受けて合格しなければなりません。その試験科目が、この「スタデイ・ハウス」の導入によって、一気にこれまでの7科目から14科目となってしまいました。その中身は、これまでになかった『哲学』や『一般科学知識』『文化形成』など大変興味深い教科も新たに導入されており、それ自身は、私も大変興味のある改革だと思っています。しかし、生徒にとっては、自主学習や課題遂行でこれまでより面倒な作業の学習をしなければならなくなっただけでなく、7科目から14科目になって科目当たりに割ける時間も激減、これが上のような抗議行動になったというもの。
 わずか数週間前に、フラールディンゲンという街の高校一年生が提案した抗議行動は、たちまちのうちに高校生自身のスト委員会の設立を生み、80年代に設立されていた『全国生徒行動委員会(LAKS)』がこれを支持することになりました。スト委員会とLAKSとは、インターネットを通じて全国の生徒に12月6日の抗議行動への参加を呼びかけました。これに対し、日頃から学校でもインターネットなどをとり入れての自主学習に慣れている高校生らは、やっと新制度への不満をぶちまける機会を得た、と思ったのか、次々に委員会に参加登録をしたり、新制度に対する意見を送ったり、の行動に出ました。11月20日には、毎週日曜日の正午過ぎに放送される政治討論番組で、この計画が取り上げられ、『スタディ・ハウス』の施行推進委員会の議長がジャーナリストのインタビューを受けました。文部省は、そのインタビューの内容を、『スタディハウス』に関する報告書などとともに文部省のホームページに全文掲載しました。
 すでにこの段階で、スト委員会は『スト参加登録が3000人に達している』と述べ、「毎日雨のようにe-mailによる意見、質問が舞い込んでいる」と言っていました。
 そしていよいよ12月6日。生徒らの集合場所に指定されたハーグの中心、議会場のあるビネンホフのすぐ近くのマリーフェルドという広場に、1万5千人とも2万人とも言われる生徒が大集合。中には試験準備や宿題のために教科書をリュックに詰めてきたものも。たまたまこの日所用でハーグに出かけた私は、電車や駅や街の中でごった返す子供たちを見ただけでなく、街中はパトカー、白バイ、が駆けまわり、街の中心部はバスも路面電車も通行止めの状態でした。全国の多くの学校が、この日は、生徒が抗議行動の為に学校を休むことを容認、また、『スタディハウス』に疑問を感じている教師の多くが、生徒とともに抗議行動に参加しました。
 抗議のために生徒らが集まったマリーフェルドの特設ステージには、ストを組織した生徒らの代表が立つ中、新制度施行の責任者である、文部省の教育担当次官アーデルムント女史が果敢にも出場。『スタディ・ハウス』の重要性を強調するとともに、「私はどのようにしてこの制度を改良していくべきかあなたたちの声を聞きに来ました。」と呼びかけました。
 実際、『スタディ・ハウス』の実施が幾分時期尚早、つまり、学校も教科書会社も十分な準備を整える時間がないままに導入された、ということは、推進者も認めるところです。これも、考え様によっては実にオランダ的で、何をするにしても「100%間違いがない」とか、「間違いなく無難なかたちで」とかいう形式の改革は余りなく、「うまくいかなかったらまたその時に議論をして改良していけばいい」という態度がたいへん多いのです。それがまたいろいろな分野での改革をやりやすくしている原因でもあるのですが、こと、学校に関しては、これまでの改革でも、その度に振り回される教師らからはしばしば不満の声が聞かれています。だから、アーデルムント女史のこんな発言がある、というわけです。
 抗議行動に集まった高校生たちは、卵、パン、りんご、バナナなどを投げ、ついには国会議事堂に向かって歩き始めました。そこへの入場は警備に当たっていた警察隊によって阻止されましたが、花壇をひっくり返し、クリスマスツリーを倒し、会議場の窓ガラスに投石し、駐車中の自動車をひっくり返すなどの暴行もあり、損害額は約800,000ギルダー(約四千万円余り)に上ると言われます。
 警察の発表では37人が逮捕されたとのこと。高校生の組織するスト委員会はすぐさまこれらの乱暴行為に対する『遺憾』表明をしました。警察の発表では、逮捕者の中には、日頃から問題のあるサッカーチーム応援のフーリガン(与太者)が混じって、混雑に乗じて暴行を働いた、ともいっています。
  その場に居合わせた『緑の党(環境保護を強調する野党)』の人気リーダー、ロゼンミュラー氏は、生徒らの投げる生たまごで顔を汚しつつも、『わたしたちは幸いにもまたこうやって集団でマリーフェルドに押し寄せてくる世代を持つことになったんだから、1個や2個の卵くらいでふさぎこんでいる場合じゃない。この子たちは本当に深刻な問題に直面しているんだから』と発言。
 与党である連合政権内では、第一党の労働党と、先の60年代の学園紛争時に設立された知識階級社会主義政党『民主66党』は、すでに抗議行動の準備段階から、
「『スタディ・ハウス』は撤回できないが、生徒らの抗議行動は支持する」という態度をとってきました。しかし、連合与党内の最後の政党、進歩主義保守派の自由民主党(VVD)は、生徒らの暴行を深刻に受け止め未成年者をこのような抗議行動に送り出した父兄や学校の責任を追及する、という姿勢。
 他方、『スタディ・ハウス』の実施を難しくした背景として今議論が再開されているのは、改革案作成段階での、各専門教科間の根回し(Lobbying)があっていたということ。高校生が学ぶ教科を決める段階で、スペイン語、ロシア語の専門家からこれらの外国語を選択科目に入れるよう交渉があったり、文科系の生徒に対する数学の必修、哲学の導入など、大学の専門家から『わたしたちの学問を軽視してもらっては困る』式の交渉があった模様。それが、文科系コースの数学の過重、理科系生徒も文科系と同様に三カ国の外国語を必修とする、などの最終案に影響したと言われています。
 この種の政策に関する裏取引は何処の国にもありそうな気がしますが、それを徐々に改正出来るかが、同じ民主主義の国でも、ずいぶん違うような気がします。
 つい先ごろの、『2歳の女の子が入試競争で他の子の母親に殺された』という日本の事件。こちらの新聞でも報道されていました。オランダ人はこの事件をどう理解するのでしょうか。ハーグから帰る電車の中でほとんど満席の高校生に囲まれ、彼ら彼女たちの高らかな笑い声、気になるボーイフレンドの噂話、あしたの試験の予想、などの他愛のない15歳の子供達の会話を聞きながら、こんなことを思いました。
 『パンツのゴムが緩んでずたずたのぼろぎれのようになった日本の子供達に比べ、この子供たちはなんてパチンと弾力のあるゴムのようなんだろう』と。

 
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