〈教育の多様性〉の会
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  オランダの学校教育7 長期にわたる進路指導
リヒテルズ直子さん

Date : 2003.03.08
Number : 007

ML ID : [diversity:0991]
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 広い意味での『教育』とは、単に知的・情動的な発達を促し指導するだけでなく、初等・中等・高等とつづく長い過程で子供の『社会化』を指導するものでもある。教育者自身が属する『社会』に次の世代をどういう『個人』として送り出し、社会内の『場』を与えるか、という意味で、『進路指導』の持つ意味は大きい。その『進路指導』について、オランダの学校制度は、個々の子供の発達の連続性を尊重して、長期にわたって継続的に行うように工夫されている。
 1985年に作られた現行の規則では、4歳から12歳までの子供が通う小学校教育で、各学校が個々の生徒の発達の記録を通年に渡って取ることを義務付けている。ヨーロッパの学校制度は、以前は、フォーク型と呼ばれ、日本の戦前の学校のように、小学校を終えると、進路別に別れて進む形式であった。エリート教育と大衆教育が著しく分かれたものであった。それは言うまでもなく、子供の社会階層の上方への移動、つまり立身出世を阻む原因ともなり易く、ヨーロッパの先進国はほとんど足並みを揃えるように、1970年ごろから、『進路決定』を遅らせることの出来る、また、進路間の移動の可能性の開かれた制度へと変わっていった。
 オランダでは、中学校の最初の2年間は、ブリッジクラスといわれ、大学進学コース・高等職業技術訓練校コース・中等職業技術訓練校コース・下等技術コースの間を、はっきり決定せずに動きながら学習することが出来る形になっている。具体的には、隣接するコースが複合的になったクラスである。学業成績に応じて、半年ごと・一年ごとにコース間を移動することが出来る。
 小学校では、最終の二年間、全国共通テストを受け、子供たちは、全国の偏差値によって、自分の知的達成度が同年齢の子供たちのあいだでどこにあるのかを知る。このテストは、義務ではないので、学校によっては受けさせないところもある。また、テスト結果はあくまでも子供の進路決定のひとつの材料に過ぎない、という態度が根付いている。小学校の最終学年では、このテスト結果と小学校が保管している個々の生徒の『発達の記録』を元に、担任と父母や保護者が話し合って、中学校を選択肢、おおよその進路コースを決める。担任は、子供が進学を希望する中学校に、詳しい所見を書き送り、テストの結果だけではわからない事情などを十分にそこで報告することが出来る。中学校側は、それらの資料を元に、希望するブリッジクラスに振り分けていくのだが、その間に、特殊な事情があったり、不明な点があったりする場合には、父母の学校訪問、また場合によっては中学の先生の家庭訪問が行われることも稀ではない。
 無論、進路指導は、学校を決めることだけには留まらない。小学校では、よく、『職業を学ぶ日』などが企画され、父兄に呼びかけ、多様な職業についている父親や母親、または知人などが学校に招かれ、子供達に説明したり、質問に答えたりする。中学校でも、小グループでの職場訪問などが企画される。そして、将来希望する職種に応じて学校進路を決めるように指導される。

付録:『オランダ通信』([LINK])より
落ちこぼれのない教育 1
落第制(第18号、2001、10)
 落ちこぼれのない教育、としながら、いきなり『落第制』の話では、『落第は落ちこぼれではないか』と反論を受けそうですね。だから、『落ちこぼれ』とは何を言うのか、はっきりさせておかねばなりません。
 『落ちこぼれ』とは、学校教育についていけなくて、その結果、学校制度はもちろんのこと、もっと広い意味での『社会化』の過程から『こぼれてしまう』生徒のことをいっている、と、とりあえず、ここでは私なりに定義づけることにします。
 そのように考えると、オランダの『落第制度』は、むしろ、子供それぞれの発達の程度の違いに対応して『繰り返す』チャンスを与える制度、という意味で、むしろ
『落ちこぼれ』の一つの解消方法である、ということが出来ます。無論、落第させることだけが、個々の子供の発達過程への適応方法ではなく、教育制度、特に中等教育の制度には、日本のそれとは非常に異なるやり方があり、『落第制』はその一面に過ぎません。中等教育の制度については、次回、次々回に述べることにして、今回は、『落第』についてだけ考えてみます。
 日本でも戦前の高等学校などでは結構『落第』があったようですが、このごろでは、ほとんど見られません。それは、『落第』に伴うマイナスのイメージが余りにも大きいからではないでしょうか。それと、年齢差による上下関係の意識が強い日本では、1年でも年が違うと、年少者のグループに混じって授業を受けることに子供も親も必要以上の抵抗を感じているのではないでしょうか。
 そういう意識がオランダでは非常に少ないのです。もちろん、一年目の授業でついていけず、試験で落第点を取ることは、本人だって親だって気持ちのよいものではありません。しかし、それは、高々『学校の成績』のことです。ひとりの成長過程にある人間の人格全体に及ぶはずのものでは到底ありえません。それがはっきりしています。だから、『落第』が割りに受け入れられ易いのです。
 小学校から落第生はいます。普通の、授業にどうしてもついていけないという落第生もいますが、帰国子女とか、移民の子とか、様々の理由による『学習困難児』などもそれに混じります。20人程度の小学生のクラスに、高学年ともなれば、3、4人程度は、落第生か落第経験者であるのが普通です。
 中学・高校になると、徐々に『落第』は制度化され、学校ごとに成績のつけ方の基準が生徒にもはっきり示され、その基準で落第点を取った場合には、落第、または、進学コース変更がアドバイスされます。教師と保護者、多くの場合は子供自身を含む懇談の上で決められます。
 義務教育として、国が無償補助してくれるのは、16歳の誕生日までです。落第すれば、それまでに修了した課程が低くなる、ということです。
 考えてみれば、同じ年齢の子供たちが、全く同じ期間に、あれだけの様々の教科を、同じようにこなすことができる、と考える方が不自然かもしれません。子供の教育達成度に、社会・家庭環境や精神的・身体的条件は大きく影響しているでしょう。それならば、尚のこと、困難な環境と条件にある子供には、『繰り返す』チャンスを与えてやる方が、正しい教育のあり方ではないでしょうか。
 
落ちこぼれのない教育 2
分岐する中等教育(第19号、2001.12)
 日本の戦前の学校制度は、ヨーロッパをモデルにしたものでした。ヨーロッパ社会は、おしなべて、アメリカ合衆国に比べると以前から社会階層の分化や職分化がはっきりしている場合が多く、そのため、中等教育も、そのような社会へ次世代を送り出すために、社会階層に応じて別々の教育体系があった、といえます。それが、大変大雑把な言い方ですが、大学などの高等教育機関の準備をするためのエリート養成の学校、技能的な職業への準備をする学校、さらに、労働者層の子弟のための教育機関、等に分化していた、という風にいえます。
 しかし、そのような学校制度では、学歴による立身出生の機会が非常に限られてしまう、別の見方をすれば、、誰がどの学校に行くかが父母の社会階層によってかなりの程度決まってしまう制度では適材適所という考えからして限界がある、ということで、1970年ごろから、ヨーロッパの学校でもいろいろな制度改革の試みが、特に中等教育を中心になされました。結果は、以前のような高等教育の種類や卒業後につく職業によってコースが分岐した中等教育ではあるけれども、同時に、それらの別々のコースの間を
「行ったり来たりする可能性」がぐっと開かれ、また、そのような分岐が決定する時期が以前のように小学校の卒業直後ではなく、その後の2年間くらいに徐々に進路を明らかにしていく、というシステムが生み出されました。
 そこで、オランダでは、まず小学校を卒業する時に、本人の学力と教師の観察、また、父兄の希望とを合わせて考えた上で、とりあえず、大学進学コース、高等専門学校進学コース、高等職業訓練校に進学するコース、と下等職業訓練校に進学するコースに、あるいは、隣接するコース同士の合併コースに入ります。中学校の1、2年の間は、学校にもよりますが、大体半年ごとに学力を元に「大学進学コースは無理だから、すぐ下の高等専門学校進学コースに変わる」とか、あるいは、「高等職業訓練校に進学するコースにいたが、学力が伸びたので大学進学コースに入れるようになった」などの調整がなされます。こうして、中学3年になる時には、とりあえず、そのコースに卒業するまでいるつもりでそれぞれ進学するのですが、その後でも、1年余計にかけるつもりになれば、上のコースに進学するチャンスがあります。大学進学コースは、中等教育が6年間の課程ですが、高等専門学校進学コースは5年で、さらに、高等職業訓練校に進学するコースは4年で終了します。そこで、いったんは高等専門学校に進学するつもりで5年を修了したが、『やはり大学にいきたい』という場合には、大学進学コースの5年生に編入、つまり、5年目を留年してひとつ上級のコースに入り直すことが出来ます。同じような移動は、高等職業訓練校に進学する4年のコースを終わって、一つ上のコースの4年生に編入するという形で可能です。実際、はじめは、4年のコースを終え、それから、ひとつ上のコースの4年目に編入(つまり4年目の留年)、さらに、5年のコースを終えて、もう一回大学進学コースの5年目に編入(5年目の留年)、それから、大学進学コースを普通より2年遅れて修了し、それから大学に入る、という例も全く無いわけではないのです。中学校が荒れている、といいますが、中学生というものが、そもそも国や文化に関わらず、急成長期であり、思春期であり、反抗期であって、難しい時期であるのは仕方の無いことです。子供たち自身にとっても、不安定な時期で、しかも学校の勉強も難しくなる、厄介な時期なのでしょう。日本で言われる『落ちこぼれ』もこの年令期に起ることです。それなら、それぞれの子供の発達に出来るだけ沿うように、機会を開いておいてやろう、というのが、オランダの制度のようです。

 
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