〈教育の多様性〉の会
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  3.教育者松蔭 (2)教育の目標と理想―『士規七則』―
荒井英治郎さん

Date : 2003.04.21
Number : 010

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松蔭のような人に教育学のような理論など勿論ないと予想してよいだろう。
しかし、松蔭の教育の崇高な目標は、判然と際立って見える。それは、「人をつくる」、「まことの人となり」を作る、要するに、尊皇の志のある士をつくる。このような教育を松蔭は欲した。そして、その背後に見え隠れしてくるのが、真の士によって達成されるべき「日本の革新」という究極の目標であった。

松下村塾の精神として、最も重要で最も意味のあるものを挙げるとすれば、それは『士規七則』である。これは、もともと従弟の玉木彦介(文之進の子)の元服の式のために書かれたものであるが、後に松下村塾の規則となったものである。

一.凡そ生れて人たらば、宜しく人の禽獣に異なる所以を知るべし。
蓋し人には五倫あり、而して君臣父子を最も大なりと為す。
故に人の人たる所以は忠孝を本と為す。
(およそ人として生まれてきた以上は、まさに人が動物と異なっている理由を知っておかねばならない。思うに、人には人として踏むべき5つの道がある。そしてそのなかでも君臣の道と父子の道が、もっとも重要にして大切な道であると考える。故に、人が人であるその根本は忠孝の道にある。)

一.凡そ 皇国に生れては、宜しく吾が宇内に尊き所以を知るべし。
蓋し 皇朝は萬葉一統にして、邦国の士夫世々禄位を襲ぐ。
神君民を養ひて、以て祖業を続ぎたまひ、臣君民に忠して、以て父志を継ぐ。
君臣一体、忠孝一致、唯だ吾が国を然りと為す。
(およそ皇国に生まれてきた以上は、まさに吾が国が世界に伍して尊い理由を知っておかねばならない。思うに、吾が国の天皇は、万世一系であって、我が国の武士はいつの世にあっても代々、天皇から官位と家禄をいただいてきた。天皇や藩主は民を尽くすことによって父の志を継いできた。君臣一体、中欧一致、これは我が国においてのみそうであると考えている。)

一.士の道は義より大なるはなし。義は勇に因りて行はれ、勇は義に因りて長ず。
(士の道にあっては義ほど重要で大切なものはない。義、すなわち正しいことは、勇気を出すことによって、実行され、勇気は正しいことを踏み行うことによってますます多く苦なる。)

一.士の行は質実欺かざるを以て要と為し、巧詐過を文るを以て恥と為す。
光明正大、皆是れより出づ。
(士の行ひは、質実で、人を欺くことのないことを眼目とし、巧みに言いつくろっては過ちを取り繕うことを、恥と考える。公明正大な生き方は総てここから発現する。)

一.人古今に通ぜず、聖賢を師とせずんば、則にひ夫のみ。読書尚友は君子の事なり。
(歴史に通暁せず成人賢者を師と仰がないならば、人はたちまちつまらぬ凡人となってしまう。書を読み友を尚ぶことは、立派な人のまず第一に心がけることである。)

一.徳を成し材を達するには、師恩友益多きに居り。故に君子は交遊を慎む。
(人徳を磨き、もてる才能を発揮するには、恩師と益友の裨益によるところが多い。故に君子は交遊を慎重にする。)

一.死して後已むの四字は言簡にして義広し。
堅忍果決、確乎として抜くべからざるものは、是れを舎きて術なきなり。
(死而後已という4文字は、言葉としては簡単だが、「死ぬまで出続け、いのちある限りやめない」)という意味は非常に深い。このことを無視しては、堅忍果決にして確固不抜という生き方は決して出来ない。)

右士規七則、約して三端と為す。曰く、「志を立てて以て万事の源と為す。交を択びて以て仁義の行を輔く。書を読みて以て聖賢の訓をかんがふ」とまことにここに得ることあらば、亦以て成人と為すべし。
(右の士規七則を要約して、三項目となす。即ち、「志を立てること、総て物事の出発点とする、交はるべき友を選んで、仁義の行ひに裨益するようにする。書を読んで、成人賢者の教えを考えて、これをまた吾が身に行う」

この士規七則にあっては伝統的な「儒教倫理」が、典型的な日本精神と不可分に織り成されている。なるほど、中国的な原理は顕著である。しかし決定的なのは、「日本的な特質」なのである。同じ事は、松下村塾のために掲げられた松下村塾規則についてもいえる。

 
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