● 本の虫スクゥエアWeb版書評
ベーシック・インカム
佐藤雅史
■ ベーシック・インカム。 すべての生活者に無条件の基本所得を保障する。 そんな荒唐無稽とも思われる議論が、ヨーロッパではある種のリアリティーをもって受け入れられるようになってきています。
その議論の牽引役となったのが、本書の著者ゲッツ・ヴェルナー氏。 同氏は、ヨーロッパ規模で展開する大手ドラッグストアーチェーン「デーエム」の経営者としてヨーロッパ中にその名が知れ渡った存在です(日本で言えばマツキヨの社長というところでしょうか)。 そんな企業家が真剣に主張する、「所得税や法人税を徐々に廃止し、消費税率を50%程度まで引き上げながらそれを財源としたベーシック・インカムを導入していく」という提言の目的はどこにあるのでしょうか。
■ ルドルフ・シュタイナーの著作『社会問題の核心』にその答があります。 R.シュタイナーは同書のなかで、労働は個々人の精神生活に属しており、精神生活を商品のように売買することはナンセンスであると説いています。
現代の人々が労働の対価と見なしている給与は、本来、人間の生活権に基づいて決められるべきもの、つまりそれは法の領域に属するものである。 そのように雇用関係が変革され、労働と収入が切り離されれば、労働は本来の人間的な姿を取りもどし、結果として社会はより大きな創造性と幸福を手に入れるだろう…。 アントロポソフィストでもある同氏が依拠する論拠がここにあります。 財源がなぜ消費税でなければならないかという点も、R.シュタイナーの語る貨幣論(『社会の未来』第2講)に通じる背景があります。
■ インタビューを中心に構成された本書は、たいへん読みやすく、ゲッツ・ヴェルナー氏の力強い主張は人間性への信頼と希望を読み手にも与えてくれるものです。 また、本書を手にされれば、「経済の友愛」(経済活動に内在する互恵性)についての正しいイメージも得られるでしょう。
■ 原書はアントロポゾフィー系の出版社フライエス・ガイステスレーベンから刊行されていますが、同書が現代書館から刊行されたことで一般読者が手にする可能性が広がったことも特筆すべき点だと思います。
ベーシック・インカム(基本所得保障)は何をもたらすのか
- 消費税率の引き上げとベーシック・インカム導入による税制と保障制度の集約化は、税を透明にし、税と保障にかかわる複雑でコストのかかる管理システムを無用にする。 そこで浮いた莫大な管理コストは新たな財源となる。
- 生産プロセスへの課税がなくなることにより、企業への投資、生産物の輸出が促進される。 また、「税の輸出」がなくなるため公平な貿易が実現する。
- 消費税率引き上げは生産プロセスへの課税廃止で帳消しとなり、物価は現状維持されるか、ベーシック・インカムによる市場購買力の上昇により下がる。
- 教育や福祉事業などが促進され、自主的な経営への健全化が進む。
オープンフォーラム編集長 佐藤雅史
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Grundeinkommen für alle: Statement Götz Werner
初出:オープンフォーラムNo.70
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