● 本の虫スクゥエアWeb版書評
ヴァルドルフ教育に深さを求めて
佐藤雅史
いま、世界で、そして日本で、ヴァルドルフ教育にもっとも必要なものは「深まり」ではないだろうか。
日本のヴァルドルフ学校の創立20周年を祝うために、ゲーテアヌムから自由大学の教育部門代表クリストフ・ヴィーヒェルト氏が来日した。 同氏は日本の学校や幼稚園関係者と精力的に対話し、世界と日本のヴァルドルフ教育の目指すべき方向性と課題を共有しあった。 その課題のひとつとして、ヨーロッパで大きく広がったヴァルドルフ教育に今、「深まり」が切実に求められているという。 それは日本にも充分に当てはまることではないだろうか。
本書は、ヴィーヒェルト氏の通訳にも付き添った入間カイ氏の熱意から生まれた。 本書の内容は、予防医学としての教育の役割に光を当て、医学と教育の協力について話し合う国際的な会議である「コリスコ会議」の資料に収められていたものだ。 教師の内面性の深化のための具体的な手引きをそこに見出した入間氏は、著者であるヴィーヒェルト氏の日本滞在中に単行本として出版するよう版元に頼み込み、4日間夜っぴての作業で翻訳を仕上げたという。
日本のヴァルドルフ教育が社会に広がるなか、私たちの運動にも危機管理の発想が求められている。 考慮すべき危険のひとつは、ヴァルドルフ教育を根底で支える秘教的な認識への社会からの批判だろう。 アントロポゾフィーが宗教ではなく、自由で明晰な個々の判断に基づくことを強調することで、その危険に向き合ってきた入間氏だが、個々が内的にも深まることがなければ危機を乗り越えることは困難だという彼の思いが本書刊行の背景にある。
本書の内容で特筆すべきは、いままで個人の領域の問題として教育関連書のなかで多くは語られてこなかった教師のメディテーション(瞑想)について、詳細に語られていることだ。 これまで口伝でしか伝えられてこなかったルドルフ・シュタイナーによる教育者のためのマントラも、その意味と用い方の説明が加えられて公開されている。 ヴィーヒェルト氏の勇気ある決断は、新しい時代の扉へと私たちを誘っている。
オープンフォーラム編集長 佐藤雅史
初出:オープンフォーラムNo.64
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