● 本の虫スクゥエアWeb版書評

『医学は霊学から何を得ることができるか』

  • ルドルフ・シュタイナー著
  • 中村正明訳
  • 水声社刊 1,575円

シュタイナー自身による
アントロポゾフィー医学入門

入間カイ

この本は、約20年前に『時代病としての癌の克服』というタイトルで出版された本に収められていたシュタイナーの3講演の翻訳で、このたび堀雅明医師(堀耳鼻咽喉科医院)の尽力によって、単独の本として復刊されたものです。 訳者の中村正明氏は、コリン・ウィルソンによる評伝『ルドルフ・シュタイナー』をはじめ、数多くの重要な本を翻訳されてきた方です。

この三つの講演は、シュタイナーの最晩年の1924年7月に行われたもので、すでにイタ・ヴェークマン医師などによって実践が始まっていた人智学(アントロポゾフィー)医学について、シュタイナー自身が「アントロポゾフィーになじみのない人にもわかるように」入門的な解説をしたものです。 ここでシュタイナーは、アントロポゾフィーは近代科学を否定するものではなく、科学における厳密な思考を「眼にみえないもの」にも当てはめようとする努力から生じているとはっきりと述べています。 そして、第1講演では、人間の魂(心)の三つの機能である思考、感情、意志を手がかりに、生命体(エーテル体)や感覚体(アストラル体)という眼にみえない作用に迫っていきます。

重力をはじめとする地球の作用は、いわば周縁から地球の中心へと「求心的」に働くのに対して、生命の力はいわば「遠心的」に働き、生物(特に植物)を宇宙に向けて引き上げる働きをしています。 しかし、この生命体の働きだけでは、生物はひたすら繁茂し、増殖し続けるだけです。 動物や人間のなかには、そうした生命の増殖を抑え、破壊する作用があり、それが感覚体(アストラル体)である、とシュタイナーは述べています。 そして人間において、この二つの相対する力の間にバランスをもたらすのが「自我機構」と呼ばれるものなのですが、この考え方のなかに、すでに「癌」という現象を理解する基礎が含まれています。 アントロポゾフィーの観点からは、癌とは、生体のなかで、細胞の植物的な増殖を抑制する機能、つまりアストラル体とそれを制御する自我機構がうまく働けなくなっている状態と見ることができるのです。

そのように、この三つの講演のなかでは、シュタイナー自身の言葉で、アントロポゾフィー医学の基本的な考え方が述べられています。 これを読むと、現在ヨーロッパをはじめ、世界各地で行われているアントロポゾフィー医学の研究と実践の努力が、この時点のシュタイナーの思いから直接的に受け継がれていることがわかります。 そして、この思いに応えようとすれば、アントロポゾフィーはすでに完結したものなどではなく、これからの僕たち一人ひとりの努力によって、さらに育成され、発展させられていくものであることを強く感じるのです。

入間カイ
当初、本著と合本で出された「時代病としての癌の克服」の翻訳者。 英独通訳翻訳業を生業とする。 「入間カイのアントロポゾフィー研究所」主宰。 主な著書に『三月うさぎのティータイム』(南方新社)、訳書に小冊子シリーズ『子ども時代の権利』など多数。

初出:オープンフォーラムNo.57
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