● 本の虫スクゥエアWeb版書評

『時代病としての癌の克服』

  • リタ・ルロア著
  • 高橋弘子,高橋明男訳
  • 水声社刊 1,890円

最新の資料を付した
アントロポゾフィー的癌治療の解説

入間カイ(本書翻訳者)

本書は、約20年前に出版された本の復刊です。 今年11月5日に、東京の昭和大学病院で行われた講演会「アントロポゾフィー医学における癌治療」(日本アントロポゾフィー医学のための医師会主催)を機に、同講演を企画・準備された堀雅明医師(堀耳鼻咽喉科医院)の尽力によって出版されました。 この本を手にして、その内容がいまだに意義を失っていないことを改めて感じました。 この復刊では、堀医師によって最新の資料も添えられています。

僕がこの本の翻訳にかかわったのは、まだ学生の頃だったような気がします。 アントロポゾフィー医学における癌治療の病院として有名なスイスのルーカス・クリニックの故リタ・ルロアさんが来日された折、僕も通訳にかりだされ、確か英語から通訳したのを覚えています。 当時は、日本人智学協会が設立されたばかりで、安田弘文さんという医師の方が鎌倉で「医学研究会」を主宰され、シュタイナーの『霊学と医学』を読んでいました。 この本の翻訳の際は、この安田さんにいろいろと力になっていただきました。 シュタイナーは、癌に対しては、ヤドリギという寄生植物の抽出液が有効であると述べ、その薬剤の作り方についても示唆を与えていました。 それを受けてさまざまな研究が行われ、現代のテクノロジーによって、ようやくシュタイナーが示唆したような製薬工程が可能になったといいます。 そのようにして開発されたいくつもの薬剤のなかで、もっとも知られている代表的なものがヴェレダ社のイスカドールです。 この本には、ルロアさんが日本で行った講演をはじめ、アントロポゾフィーのヤドリギ療法の作用や症例が具体的に述べられています。

11月5日の講演では、堀医師がポーランドから招いたロバート・スカヴィンスキーという医師が、ご自身の15年におよぶ臨床経験から、ヤドリギ療法の原理や効果を語ってくれました。 アントロポゾフィー医学のヤドリギ製剤は、リンゴ、松、オークなどの異なる「宿主」の木に寄生するヤドリギからつくられ、患者の性別や癌の種類によって、どの宿主のものを使うかを決めていきます。 同じイスカドールを使うにしても、一人ひとりの患者に合わせて、まったく新しい治療法を作っていくのです。 患者の「生きようとする意志」と、患者に敬意を払い、その個性を見極め正しく診断しようとする医師の意志が合わさって初めて治療は成功する、というロバートさんの話はとても印象的でした。 日本でもヤドリギ療法に関心をもつ医師の方々は少しずつ増えていますが、それが本来の可能性を発揮するためにも「アントロポゾフィー医師の養成」がとても重要であることを改めて感じた次第です。 この本によって、ヤドリギ療法に関心をもつ人々が増えて、癌という病気に対する新しい理解が広がっていくことになればと願っています。

入間カイ
本著の翻訳者で英独通訳翻訳業を生業とする。 「入間カイのアントロポゾフィー研究所」主宰。 主な著書に『三月うさぎのティータイム』(南方新社)、訳書に小冊子シリーズ『子ども時代の権利』など多数。

初出:オープンフォーラムNo.57
[CLOSE]