● 本の虫スクゥエアWeb版書評

『バイオグラフィーワーク入門』

  • グードルン・ブルクハルト著
  • 樋原裕子訳
  • 水声社刊 3,150円

大人のための自己教育

KAZE(「風のトポス・神秘学遊戯団」主宰)

自分の人生ではだれでも自分が主人公だというのは間違いないけれど、だからといってだれでも主体的に生きているわけでもなければ、まして「汝自身を知る」ための自己教育をしているとはかぎらない。 むしろ、自分の感情に溺れる形でしか自分を主人公にすることができないことのほうが多いように思われる。

生涯教育という、すでに手垢さえついた感じであるにもかかわらず、その意味があまり理解されていないように思える言葉があるが、その理由は生への洞察を自己認識的に深めていくことが欠落しているからではないかという気がしている。 生涯教育が意味を持ち得るのは、たんに何歳になっても学べますよ、というような水平的なあり方ではなく、それまで生きてきた過程を自己教育的にふりかえることで自らの生をより深めていくことを通じてではないだろうか。

人智学をもとにした大人のための自己教育法である「バイオグラフィー・ワーク」は、人智学医学を通じて、ベルナルド・リーヴェヘッドによりオランダではじめられた。 一人ひとりの、いわゆる「人生の物語」「生の記録」をふりかえって、現在の自分の位置を確認し、人生の意図とでもいうものを見出すためのワークだという。

ワークでは、21歳までの成長過程が「人間になりゆく/人生の準備期」、21歳から42歳までの段階が「人間である/魂の成長期」、42歳から63歳までの段階が「人間として成熟する/霊的成長期」とされ、さらにそれぞれの時期が7年ごとの段階としてとらえられている。 たとえば、今私自身の段階は、42歳から49歳の「新たに創造し、新たに観る」時期にあたる。

「『人生は40から始まる』ということは、新しく創造の力を広げるということです。 それは、ひとりひとりが自分のやり方で見出さねばならないものなのです」(本書)。

若い頃は、自分が40歳を超えて生きるなどとは思えなかったけれど、自分がいざその歳になって、少なくともそれまで生きてきた自分を振り返ることもできるようになってみると、たしかに「新たに創造し、新たに観る」という課題が切実なものとして迫ってくるところがある。

現代では、歳をとり身体が衰えてゆくことに対する恐れのほうが大きいようだけれど、その過程でしか見えてこないものを深めていくことは豊かな可能性をもっている。 その意味でも、バイオグラフィー・ワーク的な視点で自分の生をとらえていくことで見えてくるものは思いのほか大きいはずである。

本書は実例を中心に構成されていて興味深く、訳としても大変読みやすい。 また訳者によるバイオグラフィーの背景にあるものについての示唆も大変参考になった。 邦訳ではまだ類書はなく、その意味でも貴重な一冊である。

KAZEさん
「風のトポス・神秘学遊戯団」主宰

初出:オープンフォーラムNo.56
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