● 本の虫スクゥエアWeb版書評

『ナチス・ドイツの有機農業
―「自然との共生」が生んだ「民族の絶滅」』

  • 藤原辰史 著
  • 柏書房刊 3,990円

BDの評価に疑問あり

佐藤雅史

本書の意図は、無批判に「よいもの」とされているエコロジーの思潮が、全体主義や排他主義との親和性を有している可能性を指摘することにある。 意外にもエコロジカルなナチスの政策。 そのナチス・エコロジーとホロコーストの間に、著者は一種の呼応関係を見ている。

本書は、その検証の課程で、著者が現代有機農業の源流のひとつと見るバイオ・ダイナミック農業(以下BD)の足跡を詳細に追っている。 人智学がナチスによって禁止された後も、BDが保護され、「生命法則農法」と名称を変えて占領地政策や強制収容所の強制労働に応用されていく…。 膨大な史料を駆使して描き出した本書は、初期BD史の第一級の資料として読むことができる。

一方で、BDの性格づけをルドルフ・シュタイナーの講義録『農業講座』の部分的な記述に頼り、「従事者の適性を選ぶ閉鎖性」、「農地を閉じた循環系と見なす閉鎖性」、「人間を自然環境の一部と見なすことによる非人間中心主義」とする著者の認識には、疑問を呈さざるを得ない。 バイオダイナミック農業と他の有機農業を分けるものこそ、従事者の資質が活かされる農のあり方であり、開放系と言いうるほどスケールの大きな循環系の観点であり、人間の主体性が問われる「人間中心主義」であるのだから。

そんな問題点があるとしても、本書の資料的価値や共同体論にも通じる卓見には、一読の価値があるだろう。 ディープ・エコロジーとバイオダイナミックの違いを明確にしたい方にもお勧めしたい。

オープンフォーラム編集長 佐藤雅史

初出:オープンフォーラムNo.41
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