アジア太平洋のアントロポゾフィー・イニシアティブ

アジア太平洋のアントロポゾフィー・イニシアティブ

Asia-Pacific
Anthroposophical Initiative Group

以下は1996年にフィリピンで開催された第1回代表者会議で宣言されたビジョンステートメントの全文です。 それがアジア太平洋地域のアントロポゾフィー運動においていかに先進的な内容であったか、そして現在もなおその内容は古びていないことを、皆さんの目でご確認ください。

第1回の会議で宣言されたビジョンステートメント

「アジア太平洋地域のアントロポゾフィー主導者およびアントロポゾフィー協会会員による今後の展望」

1996年11月4日 フィリピン・ケソン市

ここマニラで1996年11月1日から4日まで開催されたこの会議は、過去数年来の様々な出来事を経て実現したものです。

ドルナハでの会議において、ニュージーランド、オーストラリア、カナダ、アメリカ合衆国のそれぞれの事務総長の間で、アジア太平洋地域に特有の要求にいっそう効果的に焦点を合わせられるように、互いに会合をもつ必要があることが討議されました。 その要求とは、積極的にアントロポゾフィーを学び実践することに加えて、さらにこうした努力が、この地域のアジア太平洋経済協力会議(APEC) が経済上の強力な原動力としてますます重要になりつつあることとどう互いに影響しあっていくのかを理解することです。 これまでにも、1995年8月に「未来を迎える」をテーマにハワイ会議が行われ、アジア太平洋地域での意識を高める成果を収めました。

私たちはまた、もう長い間、アントロポゾフィーが日本で学ばれており、多大な努力が払われてアントロポゾフィーの文献が日本語に翻訳され、数百もの会員や賛同者が活躍するに至っていることも忘れてはいません。 日本ではここ数年の間に何度か会議が行われ、いくつかの会にはオーストラリアの理事と事務総長が参加しています。

あまり知られてはいませんが、1995年のイースターに行われた事務総長会議でのニカノー・ぺルラス氏の見事な仕事があって、私たち自身がイニシアチブを取るという決定が早期に下されました。 この会議のホスト役を依頼されたニカノー・ぺルラス氏の返答は、大変に積極的なものでした。

歴史的な会議が今、終わったところです。 この会議は、アジア太平洋地域の8つのアントロポゾフィー諸団体の事務総長と代表と会員とが集まった、初めての会議でした。 オーストラリア、カナダ、ハワイ、インド、ニュージーランド、フィリピン、台湾、アメリカ合衆国から人々が集まりました。 私たちはそれぞれの国の文化、経済、行政組織に関してと、そうしたきわめて多様で時には困難を抱えた状況のもと、アントロポゾフィーがどのように受肉しているのかを聞き知る機会を持ちました。 そしてこの地域で始められ、今私たちの関心をひいているアントロポゾフィーのイニシアチブについて、またこのアジア太平洋地域、そして世界全域のアントロポゾフィーにとり今後展開してくる膨大な仕事に関して、互いに教えあい刺激しあう機会を持ちました。

アジア太平洋会議には、新しい意志の現れが反映しています。 それは、協力して働くこと、アントロポゾフィーを提唱する私たちをひるませるように待ち受ける難問に対処すること、そしてアジア太平洋地域における時代霊の意図に答えようとすること、このような意志です。

1990年代のアジア太平洋地域は、20世紀初頭の姿と比べればもちろんのこと、1960年代時の姿と比べてさえ著しく変容しています。 今日、世界経済上の強力な原動力として台頭したこの地域の経済は、全世界のGNPの53パーセント、総貿易量のおよそ43パーセントに達しています。 アジア太平洋地域に住む人々は、世界の総人口の40パーセント以上にのぼります。 西暦2000年になるまでには、急速に増えるこの地域の人口が、合衆国と欧州連合を合わせたものを上回る購買力を持つことでさらに事態は進み、全世界の総生産・総貿易量の70パーセントを占めるようになると見込まれています。

19世紀がヨーロッパの世紀、20世紀がアメリカの世紀として認識されるように、21世紀はまさにアジア太平洋地域の世紀となるでしょう。 この地域のすべての国に、文化や社会や経済が今後発展していくことを疑わないユニークな楽観主義が存在することを、西洋、ヨーロッパから訪れた多くの旅行者がすでに経験しています。 ベトナムのように戦争で傷めつけられた国々も、フィリピンのように社会的な多様性が存在する国々も、驚くべき躍進を遂げつつ力を取り戻しています。

しかし安易な繁栄と富の誘惑がとりわけ、APECを創設するきっかけとなったのであり、この地域の経済さらには世界経済の統合化が加速しました。 APECはアジア太平洋地域の経済成長を促進するため、「自由な」貿易と資本投資の実現を意図しています。 このことは利益をももたらすでしょうが、一方で拘束や指導原理のない経済の自由化により、この地域のまだ穏やかな経済成長段階においてもすでに明らかな環境や社会に対する破壊行為は、さらに進行していくことでしょう。 大きな懸念のひとつは、多様性に富む地域固有の文化が広範囲に及んで均質化していくこと、地域特有の意義と受容力の源泉であり、地域の個性をなしているそれぞれの文化が均質化されようとしていることです。

私たちの地域でのこれまでのアントロポゾフィーにおける成果は、英雄的な先導者たちのイニシアチブに基づくものでした。 外部からは孤立した共同体が創設され、私たちはそこで、アントロポゾフィー的なイニシアチブを実現するための知識と能力を試し、みがきあげていくことができました。 しかし時代の状況が変わってしまった今、これら、あるいはこれから現れるべきイニシアチブを、時代霊が差し向けてくる緊急の課題に基づき、現実の個々の状況に対応させることもまた必要であると私たちはみています。

私たちのそれぞれの受容力や共同体、社会は互いに異なってはいても依存しあっていることを心にとめ、アントロポゾフィーにより、および私たちがアントロポゾフィー的に働き責務を果たすことにより、アジア太平洋地域の健全な発展に寄与することを私たちは思い描いています。 以下に私たちの見通しを述べたいと思います。

  • グローバリゼーション が進み、地域固有の文化が侵食され社会的な伝統が失われるなか、尊厳を失わなわずに公正で適度な個性化を実現できるよう、アントロポゾーフは支援する。

    ※ 「グローバリゼーション」とは、とりわけ農業近代化、工業化、都市化、貿易と投資の自由化、そして強い消費主義によってもたらされた経済の地球規模での統合化のプロセスを指す。 還元主義的科学と不適切な技術を利用した無責任な資本主義に牽引され、グローバリゼーションは往々にして一人当たりのGNPの増加をもたらすが、それは世界中の社会・環境破壊の増加による膨大なコストの代償としてである。

  • 消費主義が加速する中、事物の中に余りにも深く個別化してしまった人々からの、エゴによる完全な支配を断ち切るための助けを求める声に、敏感に応える必要がある。
  • 野放図な経済拡大の破壊的な力が強まっており、様々なアジア太平洋地域の文化の生命力と想像力を確かなものにするため、アントロポゾフィーは応分の貢献をする。
  • 文化の領域は、現在、経済の支配力からまだ自立している唯一の領域である。 したがって、そこから社会の他の領域に、倫理的道徳的責任感が流れ込んでいけるよう、この領域を強めることが我々の課題の一つだと考える。
  • アントロポゾーフは、アジア太平洋地域独特の広範な課題に建設的に対応して行く方法についての認識を共有する個人、グループ、諸運動、その他の社会的組織と、意識的に連携して行く努力をすべきである。
  • 深く活発な瞑想生活と精神(霊的)研究は、アントロポゾフィー的存在がアジア太平洋地域、更に世界全体に入りこんで行く基盤を提供しつづける。 社会三分節化を含む理想的な社会構造を建設することはできようが、うわべだけの内的生活を通じてこれら社会構造の人間的基盤が簡単に侵食されてしまうならば、決して長くは続かない。

我々は当地域のアントロポゾフィー的イニシアチブが引き続き強力に発展するため支援することを再確認した。 協会員ではないが、思想、発言、行動においてミカエルの精神が深く浸透している人々との連携は当地域の緊急の課題である。 これらの人々と共に、アントロポゾフィー的イニシアチブの形成と運営の新たな方法と、お互いをつなぐ共通言語の形成を求めてゆこう。

※ 互いのイニシアチブを強め、自ら担うイニシアチブの全てに現代的、社会的、歴史的な次元を付け加えてはじめてこのようなビジョンが現実となることを我々は認識している。 我々は成功を堅く決意した。 このビジョンを実現するため、当地域、またそれ以外の、同じ考えを持つ人々、そしてアントロポゾーフを動かし、共に働くつもりである。

その生来の精神性のゆえにアジア太平洋地域は、個人や共同体のイニチアチブを産み出すのみならず、持続的発展とミカエル的文明に向かってゆく社会の変容を起こすほどに強いアントロポゾフィーの力を熱望している。 協会員、そして仲間の皆さんにお願いしたい。 キリストに導かれたアジア太平洋地域の人々にグローバリゼーションの荒波が打ち寄せてくるという大変な困難をしっかり認識し、個人、共同体、あるいは社会のレベルで、それに直接的立ち向かっていくような活動を起こして欲しい、と。

この点に関し我々は、アジア太平洋地域における共同作業の詳細を示す添付の行動計画を発表し、実行してゆくことを喜ばしく思っている。 この行動計画はまだスタートラインであり指針にすぎない。 必要に応じて今後改訂されて行くだろう。

※ 添付の行動計画:アクション・アジェンダのこと

アントロポゾフィーを現在、そして将来にわたってアジア太平洋地域そして世界全体に奉仕させていくためには、我々の非常に大きな内的作業と犠牲が必要となることを我々は忘れていない。 が、フィリピンでのこの会議が、以下のようなとても意義深いいくつかの出来事で祝福されていたという認識が、我々の内的変容へ向けての継続した努力を導き、啓示を与えてくれるだろう。

  • フィリピン国内、そしてアジアで初めての第一学級の開始。
  • アジア太平洋地域の様々なアントロポゾフィー協会事務局長やグループ代表が初めて公式な会合をもったこと。
  • この会議が、死者への祈りと追想のための国民の祝日である万霊節に集まりをもったことによる、閾の向こう側からのインスピレーション。
  • 持続的成長を社会三層構造のイメージで導こうというフィリピンアジェンダ(PA21) が、開発のための新しい考え方の枠組としてフィリピン政府に正式採用されたこと。

    ※ PA21のより詳細な説明は現在作成中でこのVision Statementに添付される予定のレポートでなされる。 これは本ステートメント中のPA21についての記述全てにあてはまる。

  • この会議の前夜、文化の領域の中心的行動主体である市民団体(civil society)とフィリピン政府との間でAPEC向けの国別行動計画をPA21に体現されている持続的成長の枠組と原則で統制するという合意がなされたこと。
  • マニラでのAPEC首脳会議と平行して近々行なわれるアジア太平洋国際会議では、アジア太平洋全域の市民団体がAPEC各国政府と対峙する際の考え方の枠組として、PA21が採用されること。

我々はここに、アジア太平洋地域の様々なアントロポゾフィー協会やグループの事務局長、代表から構成され、我々のビジョンと意図を保持しそれを実行するためのイニシアチブ・グループを結成することで合意した。 我々は、スイス、ドルナッハのゲーテアヌムを本拠とする普遍アントロポゾフィー協会の指導者と協力してこの課題の実行にあたる。

会議出席者を代表して:
オーストラリア、ニュージーランドの協会事務局長(カール・カルテンバッハ、ハンス・ムルダー)と、フィリピンの全国代表者(ニカノー・ペルラス)による署名

この翻訳は1999年10月20日に公開された試訳です。

■ 翻訳 ■
APAC 2000 翻訳プロジェクトチーム
廣井洋子 / Santos実 / 杉井由美子
監修・編集
佐藤雅史