Apr. 2006 / No.50
バイオダイナミック・コーヒー
日本上陸物語
桜庭英伯さん インタビュー
創業者の死去と大霜害によって岐路に立たされたコーヒー園を、バイオダイナミック農法への転換によって再生し、さらに独自ブランドづくりでオーガニック・コーヒーに新風を吹き込むコンパニア・オルガニカ・デ・カフェ。 ブラジル発うまいバイオダイナミック・コーヒーの日本上陸物語です。 (写真:ボア・エスペランサ農場で見つけた遅咲きのコーヒーの花)
まずは試飲から…
![]()
インタビューに伺ったオフィスで、桜庭さん自らデメターのコーヒーをいれてくださいました。 沸騰したお湯をポットに移して注ぐと、90度前後の適当な温度になるそうです。 慣れた手つきの桜庭さんがいれると、中挽きの粉が山のように盛り上がります。
桜庭:このコーヒー、ちょっと飲んでみてください。
Forum3:うん、おいしいですね。
桜庭:そうでしょう。 ストレートもいいですが、こっちのカフェ・オレも試してみてください。
Forum3:わあ、ミルクだけでずいぶん甘みが出ますね。
桜庭:ブラジルの豆はすべてのコーヒーのベースとなる中庸な苦みが特徴で、ミルクとの相性もいいんです。 エスプレッソ・アフォガードって言うんですが、バニラアイスの上にエスプレッソをかけると、これが死ぬほどうまい。 夏はそれにはまっていました。
Forum3:このコーヒーがバイオダイナミックで生産されているんですか。
桜庭:そうです。 これは3月末に発売予定の「コンパニア・オルガニカ・デメター」です。 日本で初めて発売されるデメター・コーヒーだと思います。
Forum3:パッケージもしゃれてます。
桜庭:オーガニックのものって、デザイン的にベタなものが多いですよね。 コンパニア・オルガニカ代表のパウロには、ファッション誌『VOGUE』ブラジル版のアートディレクターをしている友人がいまして、このロゴはその人のデザインです。 私としては、オーガニックまでは関心がいかないけれどもおしゃれなコーヒーが飲みたいという方にどんどん飲んでいただきたいんです。 気がついたらオーガニックだった。 そんな方から広がっていくといいんじゃないかと思っています。
Forum3:賛成です。 桜庭さんには運命的な出会いがあったそうですね。
うまい有機コーヒー発見!
![]()
パウロさんと桜庭さん
桜庭英伯さん(株式会社ユージービィ,コンパニア・オルガニカ事業部長=左)とパウロ・ヴィレラさん(コンパニア・オルガニカ代表=右)。 サンパウロ事務所近くでのツーショットです。
桜庭:ええ。 私たちの会社(株式会社ユージービィ)は、もともと在日ブラジル人の方たちにブラジルの雑貨を提供していまして、サンパウロにも仕入れ会社があるんです。 そこの部長が、「取引先の輸出業者に面白い人が出入りしているから会いに来い」と言ってきたんです。 それがパウロだった。
パウロの人柄もさることながら、オーガニックのコーヒーはブラジルでも希少で、小規模の農園主がそれを独自ブランドで流通させているのが面白かったのでしょう。 2004年の春に、いまは営業に専念しているパウロをサンパウロの事務所に訪ねました。 彼がコーヒーをいれてくれて、そのときに初めてバイオダイナミックという言葉を知りましたが、なかなか面白いことをやっているなと思いました。
でもね、そのときはこのコーヒーのうまさがよくわからなかったんです。 コーヒーは好きでしたが、当時は詳しい知識もなかったし、日本とブラジルのコーヒーのいれ方の違いなどもわからなかった。 日本だとミルで挽きますが、ブラジルではまずそういうことはしないんです。 細かく挽かれた粉をフィルターでバーッといれて飲む。 そうするとすごく苦くなるんですよね。
それで、サンプルをもらって、自分なりに勉強しながら、いろいろなやり方で飲んでみたんです。 中細で挽くとか、3分以内に抽出を終えるとか、日本流のいれ方がいろいろあって、それをやってみたらすごくおいしくはいっちゃったんですよ。 苦みのなかに甘みがあって、オーガニックでここまでの味が出るのはすごいことかもしれない。 「これは!」と思いました。
「美しい希望」の農場
大規模機械化農業が当たり前のブラジルにあって、パウロのところは20haほどの小さな農地を7人で耕作していますが、ぜんぶ手作業でやっているんです。 こんなにおいしいコーヒーを、これだけ丁寧に作っているところがあるのかと思いましたね。
「美しい希望」という名のボア・エスペランサ農園は、60年以上前、レバノン移民だったパウロのおじいさんが始めたコーヒー農園です。 パウロ自身はボストンの音楽大学に留学して、帰国後はサンパウロでスタジオ・ミュージシャンをしていたんですよ。 けれども、おじいさんが亡くなった1998年に大霜害で農園が全滅状態になったとき、パウロの芸術的センスが働いたのか、有機でやってみようと思い立ったのですね。 農民としては素人同然のパウロは、ABD(ブラジル・バイオダイナミック農法協会)に指導を仰ぎ※、そこで勉強して、それからブラジル中の有機農園を渡り歩いて学んだそうです。
農園に戻ると、農園のコーヒーの木をみんなで抜き、新しいコーヒーを種からまき直した。 「大変な手間と費用をかけ、有機栽培の基準に適合するように私たちの農園を作り変えていくと、コーヒーは目に見えて健康的な強さを持ってくるのがわかりました」と、パウロは手記に書いています。 収穫も熟した実だけを選別し、高床式の乾燥棚で風にあてながら丁寧に攪拌して奥深いテイストを生み出しています。
独自ブランドで世界へ!
ボア・エスペランサ、最初の収穫
2002年、ボア・エスペランサ農園は最初のBDコーヒーを収穫しました。 手塩にかけた最初の1杯の印象を、パウロさんが書き留めています。
すべてのコーヒーへの心配り ― 農園の改良、有機堆肥の生産、完熟チェリーの選別収穫、高床式天日乾燥と収穫後の厳しい生産管理 ― から生まれた、新生ボア・エスペランサの有機栽培コーヒーの最初の1杯のカップを飲んだとき、わたしたちは充分すぎるほど報いられていました。 皆、無言で、目を輝かせながらその液体を飲んでいました。 これらの行いがまさに実行に値することであったと、誰もが感じた一瞬でした。
甘さ、柔らかさ、香りと味。 どれもわたしたちのしてきた、最高の品質を追求すること、それと同時に自然環境を保護し立ち直らせることが、間違いなく正しい道だったのだ、と確信できたのです。
それからがパウロ独自のやり方なんですが、こういう零細な農園は仲買人に売るのが一般的です。 でも、それでは言い値で買いたたかれてしまう。 ここまで手間をかけてつくったのだから、それはやりたくない。 だったら自分でブランドをつくって売ろうと考えた。 有機認証をとった工場と契約して焙煎し、きれいなパッケージをつくり、サンパウロに事務所を置いて、サンタ・ルジーアという老舗の高級スーパーに足繁く通って置いてもらった。 日本のグルメスーパーと違って、本当に弁護士や医者などの高所得者しか使わない店です。 サンパウロで最もウォッチされている店に置いてもらい、そこを足がかりに販路を広げていった。
今では、アメリカやフランスにも出していて、親日家のパウロが「日本にも」と思っていたところに私たちとの出会いがあったわけです。 それから、有機JIS認証の取得や日本向けのテイストづくりなど、たくさんのやり取りがあって、2004年9月のビオファッハ東京に出展することができました。
取材協力
コンパニア・オルガニカ
日本総代理店
株式会社ユージービィ
tel.029-823-8189
http://www.ciaorganica.jp/
イタリアにイリーというたいへん尊敬されているロースターのブランドがありますが、パウロは「オーガニック界のイリー」を目指しているようです。 将来的にはカフェも開きたいし、自家焙煎工場ももちたい。 夢は広がりますが、闇雲に広げようとするのではなく、地に足をつけてやっています。 私もパウロとともに、「オーガニックコーヒーと言えばこれだ」と認められるようにしていきたいですね。
桜庭英伯さんのボア・エスペランサ農園訪問記
BD農法指導員のハケルさんと
指導員歴20年以上のハケル・ヴァズ・ソラッジさんはブラジル・バイオダイナミック農法協会の会長さん。 BDを語らせたらめちゃめちゃ熱い。 「彼女の話を聞いた後、農場を実際に見て、BDには一般の有機農業にはない生命への洞察が確かにあると腑に落ちてきました」と、桜庭さん。
バイオダイナミック調剤の散布
近くの沼の水を使い1時間以上かけてダイナミゼーションした500番のBD調剤を、噴霧器を使って撒いているところです。 農薬を撒いているのではありませんゾ。
延々と続く乾燥棚
ボア・エスペランサ農園では、収穫後の豆の乾燥を高床式の乾燥棚(延長100m)を使って行います。 豆によく風が通ることで、異常発酵やカビの発生を防いでいます。
堆肥づくりの山
バイオダイナミック農業の基礎となる堆肥づくりは、農場の重要な仕事。発酵した堆肥は40度近くの熱をもっています。 「さわると熱いです」。
コーヒーの花
遅咲きのコーヒーの花をみつけました。 可憐な白い花からは、ジャスミンに似たよい芳香が漂います。
初出:月刊オープンフォーラム Apr. 2006 / No.50 ◇ PDF >>
