Jul. 2004 / No.33
人智学=アントロポゾフィーの医学が
芽吹いた7日間
医師たちの熱い思いと芸術療法士たちの3年間の努力の積み重ねが結実し、現役の医師を中心にしたアントロポゾフィー医学ゼミナールが5月の連休に長野・飯綱高原でスタートしました。 同ゼミナールの運営を担ったお二人に、充実した7日間の報告と、日本の医療の現在と未来について語っていただきました。
第1回の医学ゼミナールに参加した医師の皆さん。 中央がゲーテアヌム医学セクションのミヒャエラ・グレックラーさん、その左後が浦尾弥須子さん。 この他にも様々な療法士、看護師など総勢60名が参加しました。
「1週間」は魔法の時間です
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浦尾弥須子さん(写真右)
国際アントロポゾフィー医学ゼミナール(International Postgraduate Medical Training)代表(インタビュー当時)。 済生会神奈川県病院耳鼻咽喉科部長。 小学校教師になりたかったが開業医の父親に「医術でも教育できる」と説得されてこのの道に。 癌患者とのつきあいを通して、精神面からのアプローチを模索している。 今にして、「医術は教育なり」の両親の言葉を噛みしめている。
石川公子さん(写真左)
オイリュトミー療法士。 横浜・東京を中心に、病院、医院、自宅の療法スペースなどでオイリュトミー療法を行っている。 また、グループでの健康オイリュトミーの普及にも努める。 「シュタイナー医療を考える」(2002年9月)、「シュタイナー教育と医学の集い」(2003年3月)における「医師の集まり」、そして今回のゼミナールの運営を中心的に担ったひとり。
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ミヒャエラ・グレックラーさん
ゲーテアヌム医学セクション代表。 世界各国で開催されているIPMT(医療有資格者のための国際医学トレーニング)のリーダーとして多忙な日々を送る。
邦訳著書に
などがある。
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イタ・ヴェークマン・クリニックの看護師アン・ジョリスさん(右)によるマッサージの演習風景
Forum3:お二人は日本初の医学ゼミナール開催に尽力されたわけですが、すばらしい1週間だったとうかがっています。
浦尾:毎朝おなじ時間に石川さんがオイリュトミーをしてくださって、その後自然観察をして、観察したものについてのグループ・ディスカッション、それからシュタイナーのテキストをグループごとに読みます。 お昼のあとは、看護師を含む医療従事者のグループと3つの医者のグループに分かれて分科会をもちました。 芸術療法、オイリュトミー治療、人間の体内のリズムの働きの講義とか、硫黄・水銀・塩を使った物質の本質についての実験があったり、その日ごとのテーマを勉強するんです。 夕食の後には歌を歌い、各分科会の一日の報告を共有して、その後精神科学(霊学)自由大学医学部門のグレックラーさんの講義。 これを毎日同じパターンで繰り返していくんです。
石川:お医者さんは忙しいですから、2泊3日で週末2回の講座にしてほしいという意見も多かったんです。
浦尾:そうですね。 でも、グレックラーさんが最初に、「1週間というのは物事をやり遂げるための最低の単位なんだ。 7日という日数には意味がある」っておっしゃって、その意味が最後になってわかりましたね。
石川:ただ同じことの繰り返しではなく、その1週間のなかに生き物のような変遷があったわけです。 「最終日、1週間の体験が一瞬に結晶化されたような体験をした」、「この1週間でまったく違った感性をもった気がした」、「1週間かけてゆっくり角を曲がり、新しい道の上を歩き始めた気分です」。
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シュミードリー医師による塩の結晶化と硫黄の燃焼実験。 硫黄・水銀・塩とは、錬金術で物質の基本的性質を代表すると言われている三原質のこと。
何人もの人がそう言って下さって、それが私にとっても驚きだったし、グレックラーさんも喜んでいましたね。
浦尾:ある引退間近の先生は、「これは素晴らしい医学だから日本のために広めにゃいかん」って。 その先生は、連休中に留守番だとご飯も作れないからって、奥様に連れられてきたんです。 オイリュトミーどころかアントロポゾフィーも初めて聞いたという方です。
石川:奥さんがシュタイナー教育に関わっていて、それに触発されて、という先生も何名かいらっしゃいました。
医療を統合する体系が必要です。
日本の人智学医学の可能性は?
Q1 日本でも実践できるのでしょうか?
大きな病院では難しいかもしれませんが、まず個人の開業医等から導入していけるだろうと思います。 方法論や治療法の導入もできるし、医師が自分の精神性を高めていくことも有用でしょう。 今回、自由大学医学セクションのアドバイスが受けられることは大きな助けになると思います。
Q2 日本の制度面の問題点は?
アントロポゾフィーの医薬は厚生労働省の認可を受けていないので、原則として同省の薬監証明を得なければならない建前があり、導入には慎重さを要します。 保険制度面では、すべての医療行為を保険の対象とする国民皆保険制度から、保険診療と自費診療を使い分けられる混合診療の制度へ移行していくことが重要ですね。
日本医学界の西洋医学信仰は西洋諸国の医学界以上であり、精神科学的な医療を容れようという雰囲気はまったくないのが現状です。 患者さんたちのニーズの高まりとともに、私たちの方からもっと提言していけばいいと思っています。
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朝のオイリュトミー。 自然観察でも「オイリュトミーで体験した『イー(I)』という音をこの自然のなかのどこに見いだせるでしょうか」と、すべてが有機的。
浦尾:日本にはアントロポゾフィー医学の教科書的な本がほとんどないので、医学の切り口から直接入ったという人はあまりいなかったと思います。
石川:皆さん、「待ってました」みたいな感じです。 いわゆる代替医療をいろいろ試してみたけれども、どこか精神的な柱が欠けていると感じていて、そこをアントロポゾフィー医学に求めたという先生も多かったですね。
浦尾:いろいろな代替医療を統合できるような医学体系って、あまりないんです。 チベット医学には体系がありますが、いまの西洋医学と一緒にやれるかというと、なかなか難しい。 そのなかでアントロポゾフィーは使える体系をもっていると思います。
手術するとか、薬を飲むとか、いろいろな選択のなかに、ホメオパシーとか漢方とかも使っていきましょうというのが代替療法の方法です。 でも、何のために治すのかとか、病気の意味だとか、人間って何なのかとか考え出すと、根本に人間観がない方法論は行き詰まると思います。
病気というのは、人生とか人間とは何かということを考えるために与えられたメッセージだったり、問いであったりするのだと思います。 それに答えうる医療を私たちは勉強していない。 何をしても治らない病気とか、慢性の病気の場合、目に見えるところには原因が見つからないかもしれない。 それをどういうふうに捉えていくか。
考えて納得できる充実感がいい。
石川:「アントロポゾフィーが見える世界と見えない世界の架け橋になるんだ」と納得できたという参加者もたくさんいました。
ゲーテ的自然科学の方法論による自然観察。足下に咲いているのは水芭蕉です。 ゲーテ的自然科学の詳細については本誌No.11をどうぞ。
ワークブック『植物への新しいまなざし』もおすすめします。
自然観察のとき、林に咲いていた水芭蕉が取り上げられました。 水芭蕉って、可憐な白い花の下に棒状の太い根があって、ひげ根も1メートル以上あります。 そのアンバランスを見て、強すぎる根の力が人間の頭部組織に働きかけうると考えることができるんですね(注:水芭蕉は実際には薬草ではない)。 プルーヴィングなどの実験的な証明ではなく、人間や植物がどういう存在であるかということを観察するなかから、具体的に、思考による架け橋ができる。 自分自身がその薬の作用を理解して選択できる。 皆さんが充実感をもってくださった理由は、そういった点も大きかったと思います。
浦尾:自然観察の方法も独特です。 観察するポイントも、たとえばどこが動かない部分でどこが動く部分、その動く部分はどうして動くのか。 それは「風」との関わりが強いから動くんだとか、そういう観察を通して、見た目から作用を推測できるわけです。
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会場となった飯綱高原のホリスティックスペース水輪は、口コミだけで人が集まってくる不思議な施設です。 重度の脳障害のお子さんをもつ塩沢ご夫妻がつくったスペースにたくさんの医師が集うようになり、いつしか研修施設のようになりました。 愛情がそのまま食べ物になったようなおいしい食事と聖地のような雰囲気がゼミナールの7日間を支えていました。 写真は「水輪」の中庭でお茶を愉しむ参加者。
石川:夜の講義もよかったです。 医師としての倫理観、内的発展のプロセス、という話を中心に……。
Forum3:瞑想の話なども…。
石川:ありました。 講義の最後は、「医師と司祭のための講義録」にあるマントラで一日が締めくくられました。
Forum3:まさにホリスティックなアプローチですね。
石川:このゼミナールは、5年でひと通りの過程を修了する計画です。 おおざっぱに言えば、1年目は物質の世界、2年目年はエーテル的なもの、3年目はアストラル的なもの、そして4年目は自我を中心に考えていく。 「5年目はゲーテアヌムで締めくくろう!」という話もあります。 たんなる知識の習得ではなく、例えば患者のエーテル体の働きを感得する力を養っていくことなど、体験を通して人間の全存在を実感していく。 また、現場に戻ってからも、医学部門の紹介による助言者と話し合いながら実際に患者さんをみていくんです。 助言者とやり取りしながら、薬を使い、症例を報告し、最終的にはアントロポゾフィー医師としての国際資格取得まで目指しています。
Forum3:それは楽しみです。 今日はお忙しいなか、貴重なお話をありがとうございました。
医学関連の活動紹介(2004年7月現在)
● 精神科学(霊学)自由大学医学セクション日本語HP 2008年7月更新
- 目的
- ゲーテアヌムの精神科学(霊学)自由大学医学セクションとの協力関係の下に、国際レベルの活動の案内や日本のIPMTなどの情報を掲載しています。
- 窓口
- http://www.medsektion-goetheanum.org/lang/jp/
● 国際アントロポゾフィー医学ゼミナール 2008年7月更新
- 目的
- 詳細は記事本文および下記のサイトをご参照ください。
医学セクションIPMT解説ページ(日本語)- 対象
- 本ゼミナールは医師および医療従事者が対象です。
- 窓口
- 日本アントロポゾフィー医学のための医師会
〒224-0024神奈川県横浜市都筑区東山田町1552
山本記念病院総合診療部 内
T/F.045-592-0067
http://homepage.mac.com/anthro_med/● アントロポゾフィー看護を学ぶ看護職の会 2008年6月更新
- 概要
- アントロポゾフィーの人間観、世界観を基に人間や病気をとらえると、患者と看護者自身への理解が深まり、本当の患者のニーズや看護者としてできること・あるべき姿が見えてきます。 このことはケアの質の向上や看護者自身の発展へとつながっていきます。 日本でも多くの看護職の方にアントロポゾフィー看護の存在を知ってもらい、根付かせていきたいと考えています。
- 目的
- アントロポゾフィー看護・医療を学ぶための機会と場をつくり、アントロポゾフィー看護に関心を持つ看護職間のコミュニケーションを促進し、将来アントロポゾフィー看護師が日本で誕生し、根付いて発展していくための勉強会、その他の種々の活動を行う。
- 対象
- 看護職有資格者(看護師、准看護師、保健師、助産師)。 準会員として看護学生、賛助会員、特別賛助会員として本会の活動を賛助する個人、団体または法人の入会も可。
- 窓口
- アントロポゾフィー看護を学ぶ看護職の会 事務局
T/F.050-3415-3190
http://blog.goo.ne.jp/anthro-nr/● オイリュトミー療法士ネットワーク 2008年6月更新
- 概要
- 現在国内には9名(記事制作当時7名)のオイリュトミー療法士がおり、関東、名古屋、岐阜、大阪の各地で活躍しています。 一般の方々からの、オイリュトミー療法に関するお問い合わせにも、応じています。
- 目的
- 日本国内のオイリュトミー療法士が連絡を取り合い、お互いに研鑽を積むこと。 そしてアントロポゾフィー医療におけるオイリュトミー療法の位置づけを明らかにし、その周知に努める事。
- 対象
- ゲーテアヌム精神科学自由大学・医学部門より承認された、オイリュトミー療法士免許を有し、実際に活動している者。
- 窓口
- 岩橋裕子
T/F.06-6551-3586● 人智学に基づく芸術(絵画・造形)療法研究会
- 概要
- 芸術療法は日本でも様々な活動がありますが、人智学を基礎においたものは端緒についたばかりです。 現在国内には7名の療法士がおり、東京、横浜、茨城、栃木、岐阜の各地で活動しております。
- 目的
- 芸術療法士が互いに連絡を取りあい、互いに研鑽を積み、アントロポゾフィー(人智学)医療における芸術療法の位置づけを明らかにするとともに、その普及に努めること。
- 対象
- ゲーテアヌム精神科学自由大学・医学部門より承認された免許を有し、実際に活動している者。
- 窓口
- 吉澤明子
T/F.0287-62-6320● アウディオペーデ(聴く教育)養成 2007年12月更新
- 概要
- 教育的音楽療法は、「聴く」という行為の背後で働く自己治癒力に着目したメソッドです。 この養成コースは、教育的な観点を提供するとともに、音楽療法の基礎をなすトレーニングでもあります。
- 目的
- 教育的音楽療法士養成およびシュタイナー音楽教育者養成。 ドイツ・ヴィッテン=アネンの教員養成所と日本とで交互に合宿を含めた4年間の集中講座を行います。 修了者にはディプロマを発行(ゲーテアヌム自由大学教育部門認定)。
- 対象
- シュタイナーの教員養成を修了していること。音楽の専門教育を受けていること。 現場の経験(療法・教育)を有すること。
- 窓口
- アウディオペーデ研修センター
〒223-0052横浜市港北区綱島東3-5-50-1F
T/F.045-543-1394
http://homepage2.nifty.com/audio-pade/● 医療研究会
- 概要
- 東京と長野で研究会や講座を開催しています。 人智学の人間観を理解することから始めています。 また、人智学医療だけではなく、より広い視野で医療を考えていくことが大事だと思います。
- 目的
- 医療従事者が人智学の世界観に裏打ちされた専門的な知識を得、実践に結びつけていくとともに、医療を受ける側も自分に相応しい医療を選択できるようになること。
- 対象
- 医療従事者および医療に関心のある方。
- 窓口
- 人智学に基づく医療・看護研究所
〒389-2303下高井郡木島平村上木島1896
T/F.045-543-1394初出:月刊オープンフォーラム Jul. 2004 / No.33



自然観察のとき、林に咲いていた水芭蕉が取り上げられました。
水芭蕉って、可憐な白い花の下に棒状の太い根があって、ひげ根も1メートル以上あります。
そのアンバランスを見て、強すぎる根の力が人間の頭部組織に働きかけうると考えることができるんですね(注:水芭蕉は実際には薬草ではない)。
プルーヴィングなどの実験的な証明ではなく、人間や植物がどういう存在であるかということを観察するなかから、具体的に、思考による架け橋ができる。
自分自身がその薬の作用を理解して選択できる。
皆さんが充実感をもってくださった理由は、そういった点も大きかったと思います。