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教育の多様性 アーカイブ

2007年08月13日

韓国からのお客様

オープンフォーラム誌上でたびたびお伝えしてきた、韓国の緑の森の学校から1年生のクラス担任・金弘昌さん、同校の日本語教師の新妻由江さんが2007年8月19日にフォーラム・スリーを訪問してくださる。

私は2年ほど前に、あるメーリングリストで新妻由江さんと知りあった。ちょうどNPO法人横浜シュタイナー学園で開かれた永田佳之さん(当時、国立教育政策研究所研究員)による、世界のオルタナティブ学校の動きのレクチャーを聴き、自分のなかで教育制度面での韓国の先進性に関心が高まっていたので、韓国のヴァルドルフ学校で日本の女性が教師をしているという話に興奮してしまった。

さっそく熱いメールを送ると、最初は慎重な返信をいただいたが、やりとりを重ねるに連れ、やがてこちらを信頼してくださり、オープンフォーラムに記事まで送って下さるようになった。そして、今年の2月にはフォーラム・スリーがご縁をとりもって、緑の森の学校の教員研修で高橋巖さんが講師を務めるという出来事も実現した。学校側も高橋巖さんもこの出来事をたいへん喜んで下さったようだ。

そんな新妻さんが、夏に来日(帰国?)されるとのこと。「せっかくだから、日本のヴァルドルフ教員の集いに参加されては?」と誘いをかけた。2005年に台湾で開かれたアジア・ヴァルドルフ教員会議に刺激され、日本で学校を超えたヴァルドルフ教員の集いが毎年開かれているのだ。すると、オープンフォーラム誌に日韓の交流の呼びかけ文を寄せてくださった金弘昌さんが、自分も参加したいと希望された。

韓国の先生の積極性に少々たじろいだが(笑)、面白いので教員の集いの呼びかけ人・秦理絵子さんに仲介したところ、話はトントン拍子に進み、今回の来日に。

写真中央が高橋巖さん、その左が金さん、右端の女性が新妻さん

金さんは、韓国のヴァルドルフ幼稚園関係にもつながりが深いらしく、幼児教育関係者とも交流を希望し、19日には日本シュタイナー幼児教育協会の理事のおひとりにも来ていただくことになった。またまた興味深い集いになりそうだ。

韓国という国は、日本とよく似たところがある。他のアジア諸国は、「私たちは欧米に学びに行くことなんかできないから、先生たち来てよー」というスタイルで、巡回教員養成が行われているのだが、韓国・日本は、欧米で学んだ人たちが自前のつながりのなかで自分たちの教育をつくっていくスタイル。韓国・日本の運動にはある種のプライドのようなものが、共通項として感じられる。

それはよい部分もあるのだろうが、台湾、タイ、シンガポール、マレーシア、ネパール、インドなどの地域が巡回教員養成の講師を介して共有しているゆるやかなネットワークから、韓国・日本ははずれてしまっているということは意識しておくべきだろう。

この溝が大きくなる前に、日本・韓国は、意識的にアジアのイニシアチブ(APIG)とのつながりをつくっていく必要を感じている。

関連の特集をオープンフォーラムNo.64で紹介している。読んでいただければ嬉しい。

2007年08月22日

自由ヴァルドルフ学校の「自由」とは?

名称の問題はまだまだある。

「自由ヴァルドルフ学校(Freie Waldorfschule)」、「精神科学(霊学)自由大学(Freie Hochschule für Geisteswissenschaft)」等々についている「自由」という言葉が何を意味をしているのかについて、皆さんは熟考したことがあるだろうか。

キリスト者共同体の小林直生さんに指摘されて初めて私も気づいたのだが、私の場合、それを指摘された瞬間に「なーんだ」という思いがわき起こり、そのうちにじわじわと「やはりそうだったか!」という感動が押し寄せてきた。

もったいぶらずに明かすと、ここで用いられている「自由」は、いわば「私立」の意味で使われているのであって、ヴァルドルフ教育の内容に関する主義主張とは一切関係がないということなのだ。つまり、ここでの「自由」は、国家等から独立した自主教育機関であるということを謳っているに過ぎない。

私たちは「自由」という言葉に弱い。ついつい、思い入れたっぷりに「自由○○××」と掲げたくなるのであるが、ここでは「私立」とか「自主」と書いた方が本来の趣旨に近いということをしっかり意識しておきたい。なぜならこのことは、ルドルフ・シュタイナーの社会論に照らしても、非常に大きな意味があるからだ。

「精神活動」「法活動」「経済活動」の記事で少し触れたが、ルドルフ・シュタイナーの社会論では、社会における精神活動の領域の自立性が非常に重視されている。学校のような文化活動は、経済貢献に適した人材を求める経済界からの要求や、恭順的な人間を求める国家からの要求から、完全な自立を保つことがひとつの理想である。そのことが実現することによって、社会は、すでに存在している外的な要因に引きずられるのではなく、発展の要因を自らの内側に確立できるということなのだ。

2002年に小泉内閣の特区制度が火をつけ、藤野の学校法人シュタイナー学園の認可にひとつの結実をみた「教育の多様性の会」という動きがある。ヴァルドルフ学校というひとつの教育信条を超えて、あらゆるオルタナティブ学校の実現を目指す人たちが手を結んだこの活動の目的は、まさに日本において教育の自主独立の可能性を拓くことにある。

ヴァルドルフ学校が、そんな大きな社会の流れの一翼を担う活動として、意識して「自主」を謳っていくようになれば、ほんとうに素晴らしいことだと思う。

2007年08月24日

韓国にコネクショニストの友を発見1

金弘昌さん(右)と新妻由江さん(左)

韓国のヴァルドルフ学校「緑の森の学校」の先生、金弘昌(キム・ホンチャン)さんと新妻由江さんのフォーラム訪問(2007年8月19日)の報告をしたい。

金さんは物静かで、「まっすぐ」という形容がふさわしい好男子だった。ドイツでの学びを終えて帰国し、緑の学校に赴任してから1年半ほどしか経っていないという。昼食をまじえながら、4時間半にもわたった懇談を淀みなく通訳してくださったのは、同校の日本語教師、新妻由江さん。そして、韓国の大学での日本語教師の経験をもち、いまは日本に戻られた掃部惠美(かもん・えみ)さんも通訳のフォローをしてくださった(掃部さん、助かりました!)。午後からは、ヴァルドルフの幼児教育者トレーニングにも講師として関わっている金さんの希望で、日本シュタイナー幼児教育協会から役員の松浦園さん(ヴァルドルフキンダーガルテンなのはな園教師)も駆けつけてくださった。

私たちはじつに多くのことを話し合った。なかでも、アジアの縦社会のなかで個と共同体の関係をいかに健全につくっていくかという課題意識が、彼の活動の基底をなしていることがわかり、たいへん嬉しく思った。そのことは、別の機会に書くことにして、今回は緑の森の学校について面白いと思ったことをいくつか紹介したい。

韓国のアントロポゾフィー・人智学運動は、日本の活動の草創期に似て、全体の様子が把握できる状況ではないようだが、ヴァルドルフ学校は少なくとも2校存在する。ひとつは対案学校(後述)として5年前にスタートした緑の森の学校で、もうひとつは制度的な縛りのない完全な自主運営校であるという。

対案学校というのは日本で言えばフリースクールという扱いだが、教育制度的な裏付けをもっている点が日本のフリースクールとは異なっている。世界の教育制度の研究者である永田佳之さんや古山明男さんによれば、韓国の教育制度は多様性に対する取り組みの面で日本よりもずっと先進的な位置を占めている(というより、日本の教育行政があまりにも保守的すぎるのだが。韓国の制度についてより詳しく知りたい方は、永田佳之著『オルタナティブ教育 ― 国際比較に見る21世紀の学校づくり』〔新評論2005年〕を読まれるといい。また、教育の多様性の会での古山さんの発言も参考にしてほしい)。

2007年08月25日

韓国にコネクショニストの友を発見2

左端が日本シュタイナー幼児教育協会役員の松浦園さん、中央は飛び入り参加の年綱秀夫さん(ヴァルドルフの教員養成で修行中)

さて、緑の森の学校だが、この学校が対案学校として始まった背景には、この学校を特徴付けている興味深い実践への希求があったという。それは、いわゆる健常の子どもたちと障がいをもつ子どもたちが同じクラスで学ぶ「統合教育」への取り組みだ。これは、韓国の国内でも希有な試みであるばかりか、世界のヴァルドルフ教育の流れのなかでも数少ない試みに入る。治療教育という分野が早くから確立されたアントロポゾフィー・人智学の世界では、統合教育への流れが大きくなる余地がなかったことがその理由だろう。

緑の森の学校では、定員の1割までなんらかの障がいをもっている子どもたちを受け入れる方針だという。クラス担任は原則としてひとりで、副担任は置かず、その代わりに専門のトレーニングを受けた教師(アントロポゾフィーの治療教育ではなく、韓国で一般的に取り組まれている特別教育の教師)を置いて、各クラスのニーズに応じてその教師が臨機応変に対応しているという。この方法で授業がきちんと成立するのはすごいことだと思う。日本でも栃木に統合教育を目指したヴァルドルフ学校があったが、様々な事情で、継続が難しくなったようだ。

まず統合教育という大きな目標があり、その上でヴァルドルフ教育という方法論が援用されている。これが緑の森の学校のイメージではないかと、金さんのお話から印象づけられた。金さんは、この学校方向性に大きな可能性を感じていると言い、統合教育への方向付けのなかでコリスコ会議に意義を見出しているとも語った。

コリスコ会議というのは、最初のヴァルドルフ学校の校医だったオイゲン・コリスコ医師が提唱した医学の教育的なアプローチを継続・発展させていくために、教師、医師、父母、療法士、治療教育者たちが専門領域を越えて対話を重ねていく国際カンファレンスだ。アジア地域でも、2006年にインドとフィリピンで開催されている。

統合教育に関わる金さんが、この流れに関心をもつのは自然なことだと感じる。「コリスコ会議を日本と韓国が協力して開催したら素晴らしいことだと思います。手を携えれば、物事はより容易に実現できるのではないでしょうか」と、金さんは投げかける。松浦園さんとの話しあいでも、日本シュタイナー幼児教育協会と韓国の幼児教育者養成グループとの交流を前向きに検討していこうと、意気投合した。翌日からは藤野のヴァルドルフ教師の集いに合流し、日本の学校との交流の道を探られるのだろう。

韓国と日本のヴァルドルフ学校とヴァルドルフ学校、幼稚園と幼稚園、そして国際会議の共催。金さんの視点ははじめからおわりまで「手をつなぐこと」から離れることがなかった。うん、面白い。

韓国にコネクショニストの友を発見。貴重な出会いの一日だった。


* 緑の森の学校のプロモーション・QuickTimeムービーを預かった。とても生き生きした映像で、統合教育の一端もかいま見えて面白い。見てみたい方は、ご連絡ください。

2007年09月12日

イエナプラン教育を日本に1

永田佳之著『オルタナティブ教育―国際比較に見る21世紀の学校づくり ―』新評論2005

先日、元国立教育政策研究所の研究員で、今年の春から聖心女子大の准教授に就いた永田佳之さんとお話する機会を得た。お子さんをオーストラリアのヴァルドルフ学校に通わせた経験もあり、ヴァルドルフ教育にも理解のある研究者で、「シュタイナー教育の最大の特徴はセレンディピティーがあること」という彼の持論は傾聴に値すると思う(セレンディピティーというのは、意図せずにいろいろな宝物を手にする才能というような意味で、「幸運力」とでも訳せるかもしれない)。

比較教育学の専門家である永田さんと日本のオルタナティブ教育の状況について話しているなかで、オルタナティブのなかでヴァルドルフ教育だけが独走しているのが気になるね、ということが話題になった。永田さんによれば、これは日本に限ったことではないらしく、世界中でヴァルドルフ学校がダントツの躍進を見せているのだ。ヴァルドルフ教育の柱になる理念が明確にあり、カリキュラムや教員養成が整備されていることが、その躍進を支えている。

リヒテルズ直子著『オランダの個別教育はなぜ成功したのか ― イエナプラン教育に学ぶ ―』平凡社2006

これは喜ばしいことかと言えば、そうとばかりも言っていられない。社会というものは多様性によって健全性を保っていくものだし、オルタナティブな選択のなかで自分と比較できるような「朋友」がいることでヴァルドルフ教育も自分たちを客観視する視点をもちうると思う。ヨーロッパやアメリカが経験したように、ヴァルドルフ教育の突出ぶりが社会のなかに反感を呼び起こし、大規模なヴァルドルフバッシングにつながる可能性もある。

それに、世の中には、公教育には満足できないけれども、ヴァルドルフ教育も肌に合わないという人もいる。そのような人たちが学校探しをするなかで、ヴァルドルフ学校の門を叩くこともあるはずで、そこで適切な対応ができることはとても大切だ。自分たちのことだけに必死であればよいという時代は終わったのだと思う。そのためにも、ヴァルドルフ教育関係者がオルタナティブという視点をもつことが、ますます必要とされてきていると感じている。

そんななか、イエナ・プランという教育メソッドについて詳細に紹介する催しの情報が飛び込んできた。月刊オープンフォーラムでもご紹介した、オランダ在住のリヒテルズ直子さんが進めている企画だ。個別教育を重視するイエナ・プランの実践は、ヴァルドルフ教育を目指す人たちにも刺激的な内容をもっていると思う。

世界で子どもが一番幸せな国オランダのイエナプラン教育
― 一人ひとりの子どもを育てるマルチエイジの小学校 ―
シンポジウムとワークショップ
2007年11月10日(土)11日(日)
主催:オランダ・イエナプラン教育の会
後援:在日オランダ大使館、朝日新聞社、平凡社
協賛:株式会社カグヤ
http://home.planet.nl/~naokonet/eventguide.htm http://www.freeml.com/diversity/4803

社会のなかで「ともに発展していく」という感覚を磨くことが、ヴァルドルフ教育の真の発展の鍵を握っている。イエナ・プランのような動きに注目していくことは、そのための大きな助けになることは間違いない。

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